case09 思い通りの家を建てるためのコストダウン術

理想の家を建てるのに、
目の前に立ちはだかるのが「予算」の壁。
限りある予算のなかで、いかに建て主の希望を
叶えるかが建築士の腕の見せどころだ。
コストダウンに取り組む建築士が
その秘訣を公開してくれた。

建具をなくしてコストダウン扉の代わりにカーテンで仕切ったら開放感のあるワンルームに

もう1軒、神奈川県平間市に御前氏が手がけた家を訪ねた。1階に両親、2階・3階に長男夫婦と次男夫婦が住むという珍しい3世帯住宅。住宅街のなかで、ひときわ大きく、ガルバリウム鋼板のしゃれた外観が目を引く古屋邸である。

子世帯が家を持つための現実的な選択肢

間取り図

1階は広いワンルーム。2階は寝室と将来に備えた子ども部屋(いまはトレーニングルームとして使用)。畑に面した浴室は、奥さまのお気に入り。洗濯機の横にバルコニーがあり、洗濯物をすぐに干せるようになっている。

御前氏さんは、2世帯住宅を積極的に手がけている建築士だ。2世帯・3世帯が一緒に住むことは経済的に非常に有効だと言う。
「バブルの時期に比べて土地の値段が下がっているといっても、家づくりにおける費用のウェートはまだまだ大きい。仕事や暮らしに便利な土地は容易に手に入りませんから、複数の世帯が集まって家づくりを行なうというのは、子世帯が家を持つために、特に首都圏では必然的だと思います。子育てにおいても、子どもの発熱など、緊急時に親に面倒を見てもらえるのは心強いし、親の立場からは老後を考えても安心。複数の世帯が集まって、耐久性のある家づくりを行い、代々子孫に引き継ぐことができればとても意味のあることだと思います。娘夫婦と同居する、いわゆるパラサイトダブル型の2世帯住宅も実際増えています」

しかし、古屋家のように長男夫婦、次男夫婦と両親が一緒に暮らす3世帯住宅は珍しい。どういう経緯で一緒に住むことになったのだろう。

長男夫婦の家(2階・西側)の写真

和室の写真

玄関を入ってすぐ目の前にある和室。玄関と和室が一体となっているので通常の玄関よりも広々とした印象を受ける


ダイニングキッチンの写真

ダイニングテーブルは、雑誌で見つけた家具職人にオリジナルでつくってもらった。キッチンには気に入ったガス台を取り入れた。


ロフトの写真

ちょっとした隠れ家風のロフト。約7畳と意外に広い。棚には好きな雑誌などが収納されている。船舶用の丸い窓がおしゃれ。


ジャグジーバスの写真

長男の正義さんが何よりこだわったのが大きなジャグジーバス。このお風呂は、ショールームで実際に入浴して選んだという。

建て主も動いてコストダウン壁に柱に梁に建具... できる塗装は全部自分で

次男夫婦の家(2階・西側)
次男夫婦の家(2階・西側) ロフトの写真

ロフトに上がると、大きな黒のクッションとギターが目を引く。棚に並んでいる愛犬ニッキー(♂)の服がかわいい。

リビングの写真

この日は撮影のために明るくしたが、ふだんは間接照明でうす暗い雰囲気の中で暮らしている。明るすぎると落ち着かないのだとか。

リビングの写真

黒と濃い茶色とステンレスが好きという次男夫婦は、自分達の好みの色に木部を塗った。壁の珪藻土塗りも自分達で。時間をかけた分、愛着も大きい。

リビングの写真

部屋の中には大きなスクリーンを設置。大好きな映画で迫力ある画面を楽しんでいる。時には友人を呼んでスポーツ観戦をすることも。

和室の写真

「和風モダン」をめざした2人は、玄関正面の和室では、黒い壁紙にこだわった。茶室としても利用できるつくりになっている。

ダイニングの写真

フルオーダーのキッチン。ここもステンレスと茶色で統一した。友人が集まった時も、料理を作りながら会話に参加できる。

「弟達はすでにマンションを買っていたので、最初は築40年の親の家を壊して2世帯住宅にするつもりでした。でも、せっかくだからと弟にも声をかけたら、住んでいるマンションが売れたら話にのりたいということに」(長男・正義さん)

「マンションに住んでいると、やっぱり一戸建てへの憧れがあるんですよね。ここは、駅にも近いいい場所なので魅力的だったんです」(次男・由紀夫さん)

正義さんと由紀夫さんは、年齢が9歳離れていることもあって、「ケンカをした記憶がない」というほど仲がいい兄弟。由紀夫さんのマンションが売れそうだとわかった時、正義さんは涙を浮かべて喜んだという。

準備期間だけで約2年、研究を重ねて選んだ方法

両親の家(1階)

3世帯住宅をオープンネット方式で建てようと提案したのは、兄の正義さんだ。
「家を建てる前の準備期間がすごく長かったんです。2年間ぐらいは家づくりについて勉強していました。
シックハウスとか、欠陥住宅とかいろいろ研究した結果、建築士に頼むのが一番いいと感じました。我々のコンピュータ業界でも、若いエンジニア達は、つくる側の理論で仕事をする人が多いのですが、使う側の目線で物を考えないと失敗してしまう。家をつくる側でなく、建てる立場でやってくれる専門家っていうと、建築士しかいないと思ったんです」

さらに本で知ったオープンシステムに理論的に共鳴。オープンシステムを採用している建築士を探した。
「4人の建築士さんと"お見合い"して相性のいい人を選びました。質問事項をたくさん書いて、これについてどう思われますかって、恐れ多くも家族みんなで面接したんです」

住宅建築に関する持論、なぜ建築の道に入ったのか、どんな建築が得意分野か、健康住宅への考え、家づくりの最重点実施項目、お勧めの間取り、災害対策...など、直接いろいろ質問することで、納得して建築士を選ぶことができたそうだ。

御前さんに決めたのは、これまでに建てた建築物が自分達の好みに近く、一番親身になってくれそうに見えたからだという。

リビングの写真
洗面台の写真

:両親の家のリビング・ダイニングルーム。家全体がバリアフリー。左:寝室のそばにあるトイレ。車イスになっても利用できるよう、洗面所との仕切りをなくした。客用のトイレは別にある。
:犬との生活為と、将来手すりをつけることも考慮して、壁の下部は板にした。

建築士の工夫でコストダウン設計で費用を抑えるだけでなく作業面でも手腕を発揮

一軒の家に生まれた個性豊かな3つの住宅

古屋さん一家は、その後の家づくりにも積極的に関わった。インターネットや雑誌などで、安くて良い建材や器具を探したり、壁材を安く塗ってくれる職人を自分達で見つけたり...。一番熱心だったのが次男夫婦で、仕事が終わったあと、深夜まで壁塗りや、木部のオイルステイン塗りなどをこなしていった。
建築士の御前さんも自ら動いた。まずどうしたらコストを抑えながら品質の高い建材を使えるのか考えた。無垢チークフローリングの安価な入手先や、トルコ産の特殊な大理石を扱う代理店と交渉したりした。カウンターも集成材でなく、無垢材を使うことにこだわった。次に、人件費を抑えるために、ステンレスフラットバーや堅木を階段の滑り止めとして埋め込む作業も施主と一緒に楽しんだ。施主と話し合って共感を得ることが出来れば、オリジナル照明のアイデアを出して自ら取り付けた。そして、一番大きな問題であった、木造住宅に在来工法の(ユニットバスでない)浴室、しかもジャグジーバスを親世帯ダイニングの真上に設けることについては、出来る限りの可能性を検討した。これはコストと品質に挑戦した象徴となった。このように素材やディテール、性能に関わる部分でコストダウンを積み重ねた。

そうしてできあがった3世帯の住宅は、それぞれに個性的である。

3階にあるバルコニーの写真

3階にあるバルコニーは、次男夫婦と長男夫婦の交流の場。間仕切りにはファイバーグレーチングのドアを設けている。ここだけは玄関を通らなくても行き来できる。

御前さんがオリジナルでつくった照明の写真

御前さんがオリジナルでつくった照明。シンプルだが、和風モダンな家の雰囲気にぴったり。他にもあちこりに手作りの照明が使われている。

次男夫婦の玄関横にある飾り棚の写真

次男夫婦の玄関横にある飾り棚。長男夫婦の玄関横にも同じスペースがあり、それぞれお気に入りの小物を置いている。ライトアップすると、一段と雰囲気が出る。

1階の両親の家は、バリアフリー。車イスになっても生活できるように、トイレの仕切りをなくしたり、あとで手すりをつけられるよう壁を板にしたり、コンセント位置を高くしたりと、将来への備えが万全である。

兄の正義・恭子夫妻の家は、木を生かした明るいナチュラルな雰囲気。お風呂好きな正義さんの強い希望で、大きなジャクジーバスを備え付けた。

弟の由紀夫・方子夫妻の家は和風モダン。「黒と濃い茶色とステンレスが好き」という2人の趣味が生かされ、スタイリッシュでおしゃれな空間ができあがっている。

玄関が別なので毎日顔を合わすわけではないが、父の日・母の日の合同イベントとして3世帯合同で食事に行ったり、女性陣3人で映画を見に行ったり......と、3世帯はほどよい距離を保って仲良く暮らしている。
留守中の防犯面や、親の老後を考えた時の安心感など、メリットを感じることは多いらしい。

各世帯の当初予算は2000万円~2500万円だった。見事予算内におさめたのは次男夫婦。長男夫婦と両親の家は、途中の計画変更などもあって、やや予算をオーバーしたという。それでも、妥協しないでつくった家への満足度は非常に高い。

一つの土地に集まって3世帯が家づくりをするのは合理的である。それに加え、設計者と十分話し合う時間を共有し、アイデアを出し合い、お互い工夫する事でコストコントロールが可能となった。限られた予算の中で最大の満足を得られるための方法である。

DATA 古屋さんの家